旅館業の維持管理 その2

今回も前回に引き続き、法令等で定められている旅館業の維持管理について、ご説明いたします。

まず、寝具など貸与品に関しては以下のようなものです。

寝具類の措置

  • 布団及び枕には、清潔なシーツ、布団カバー、枕カバー等を用いること
  • シーツ、布団カバー、枕カバー及び寝間着は、宿泊者ごとに交換し、洗濯すること
  • 布団及び枕は、適切に選択・管理等を行うこと
  • 寝具は収納室等の収納設備に衛生的に保管すること

客室、脱衣所等に、くし、コップ等を備え付ける場合には、清潔なものとし、宿泊者ごとに取り替えること

  • 宿泊者ごとに洗浄・消毒したものを提供しましょう

次に、洗面所に関しては以下の通りです。

洗面所およびトイレの手洗い設備には、清浄な湯水を十分に供給するとともに、石鹸、ハンドソープ等を常に使用できるように備えること

また、トイレに関しては以下のようなものです。

トイレに備え付ける手ぬぐい等は、清潔なものとし、宿泊者ごとに取り替えること

  • 共用の手ぬぐいを置かないこととされています

次に、飲用水等に関してです。

浴室の湯栓・水栓、洗面所、トイレの手洗い設備への清浄な湯水の供給その他飲用水等の衛生確保については関連法令及び要綱に従って管理することになります

  • 原水の種類や貯水槽の有無などによって該当する法令等が異なります。建築物衛生法の対象となる特定建築物の場合は建築物環境衛生管理基準に従って管理する必要があります。種別や管理方法については保健所に問い合わせてみましょう。

水道水以外の水を飲用等に使う場合は消毒や水質検査を行う必要があります

  • 検査項目は保健所に問い合わせてみましょう。

次に、貯湯槽に関しては以下のようなものです。

温泉をタンクに貯める場合の維持管理について(温泉以外の湯を貯める場合もこれに準じて管理します)

  • 貯湯槽内部の汚れ等の状況について随時点検すること
  • 貯湯槽内部の清掃及び消毒は、1年に1回以上行う
  • 貯湯槽内の湯を60℃以上に保つこと。但し、これが難しい場合には、塩素系薬剤により湯の消毒を行なうこと→ 遊離残留塩素濃度0.4mg/L以上に保つこと

清掃、消毒、検査等の実施状況を記録し、3年間保存すること

次回も、旅館業の維持管理について、引き続きご説明いたします。

旅館業の維持管理について

前回までは旅館業許可の申請についてご説明してきましたが、今回からは旅館業許可を取得してからのお話をしていきたいと思います。長く旅館・ホテル営業や簡易宿所営業などを行っていくためには、まずは法令等に定められた内容に沿って営業をしていく必要があります。

旅館業法第4条は、旅館業の営業者は宿泊者の衛生に必要な措置を講じなければいけないと定めています。法令等で定められている内容は次の通りです。

まず、管理・帳簿類に関しては、以下のようなものです。

宿泊者名簿を揃えること

  • 宿泊者名簿が必要な理由は、感染症が発生した時や感染症患者が宿泊した時に、その感染経路を調査するために規定されているものです。
  • 必要な項目は、氏名、住所、職業、性別、年齢、前泊地、行先地、到着日時、出発日時、室名です。
  • 日本国内に住んでいない外国人宿泊者の場合は、国籍、パスポート番号についても記載が必要です。この場合、パスポートのコピーを名簿に添付し一緒に保管します。パスポート番号等の記入については、テロ対策の一環で規定されています。
  • 作成日から3年間保存します。
  • 営業施設又は営業者の事務所に備えておきます。

営業施設ごとに管理者を置くこと

  • 管理者の資格は特に必要ありませんが、営業施設の衛生管理が適切に行われるようマニュアル等の作成や従業員に対する教育などの責任があります。

営業施設には、公衆の見やすい場所に施設の名称を掲示すること

  • 建築物の一部分で営業する施設については、公衆施設を認識できるように郵便受け等に表示する等、複数個所に表示するようにしましょう。

次に、緊急時の対応に関しては、以下のようなものです。

事故が発生した時その他の緊急時における迅速な対応を可能とする体制をとること

  • 「迅速な対応を可能とする体制」とは、宿泊者が緊急通報する為に施設内の各所(客室・通路・浴室・トイレ等)に設置された通信設備(直通電話機、緊急ボタン等)により、施設従業員又は管理会社等が徒歩、自転車、バイク、クルマ等により、おおむね10分程度で駆けつけることができる体制のことです。

次に、客室に関しては以下のようなものです。

客室にガス設備を設ける場合の措置

  • 宿泊者の見やすい箇所に、元栓の開閉時刻及びガスの使用方法についての注意書を提示しておくこと
  • 元栓は、各客室の宿泊者の安全を確かめた後でなければ開放しないこと

次回も引き続き、旅館業の維持管理についてご説明いたします。

旅館業 各種申請・届出手続きについて

今回は、旅館業の各種申請・届出手続きについてご説明いたします。

まず、新規営業許可申請が必要なケースは次の通りです。

  • 新規旅館の建築の場合
  • 営業者の変更の場合(例えば、個人事業者から法人へ変更の場合又はその逆の場合や、A法人からB法人への変更の場合など)
  • 施設を移転する場合
  • 施設を大規模に増改築する場合
  • 営業種別を変更する場合(例えば、旅館・ホテル営業から簡易宿所営業へ変更するなど)

新規の営業許可申請をしようとする場合は、必ず事前に保健所に相談しましょう。

次に、変更届を出す必要がある場合は次の通りです。

  • 施設の名称を変更する場合
  • 営業者の所在地を変更する場合
  • 法人の名称・所在地・代表者・役員を変更する場合
  • 施設を増改築する場合
  • 管理者を変更する場合(管理者の資格は特に必要ありませんが、営業施設の衛生管理が適切に行われるようマニュアル等の作成や従業員に対する教育など、責任があります。)

変更届は、変更後10日以内に届出が必要となります。また、変更した内容の分かる書類を準備しておきましょう。例えば、履歴事項全部証明書や施設設備図面などです。

次に、承継承認申請を提出する場合もあります。

例えば、営業者(個人)が死亡して、承継人が相続した場合ですが、営業者の死亡後60日以内に申請する必要があります。申請時に必要な書類は、戸籍謄本(被相続人及び相続人全員の関係が分かる戸籍の全部事項証明書)、相続人全員の同意書(相続人が2人以上の場合)などです。手数料が9,700円かかります。

また、営業者(法人)が、合併または分割により承継する場合は、事前に「承継承認申請」の手続きを行う必要があります。申請時に必要な書類は、定款又は寄附行為の写し、履歴事項全部証明書(但し合併または分割登記後)、役員全員の申告書などです。手数料は、9,700円かかります。

最後に、廃止届(停止届)については、営業の全部もしくは一部を廃止・停止した場合に届け出ます。廃止(停止)後、10日以内に届出することになります。

いずれの場合も、不明点は保健所に問い合わせてみましょう。

旅館業許可 施設名称の掲示について

東京都の旅館業法施行条例では、施設名称の掲示について次のように規定しています。

「営業施設には、公衆の見やすい場所に、施設の名称を掲げること」

考え方としては、施設名称の表示については、公衆がその施設を認識できる程度の標識にする必要があります。既存の看板や表札でも構わないのですが、旅館業法における営業施設であることが認識できるものが望ましいとされています。

また、分譲マンションの1室など建築物の一部分で営業する施設については、郵便受け等に表示するなど、複数個所に表示することが望ましいとされています。

次に、許可申請施設の設置場所が、下記施設の敷地の周囲おおむね100メートルの区域内にある場合、旅館・ホテルの設置によって清純な施設環境が著しく害される恐れがないかどうかについて、保健所から下記施設を所管・監督する関係機関に対し、意見を照会することになっています。

① 学校教育法に規定する学校(大学を除く)及び就学前の子供に関する教育・保育等の推進に関する法律に規定する幼保連携型認定こども園

② 児童福祉法に規定する児童福祉施設

③ 社会教育法に規定する社会教育に関する施設その他の施設で、都道府県の条例で定めるもの(例えば、各種学校、図書館、主に児童が利用する施設など)

詳細は、保健所まで問い合わせてみてください。

旅館業許可 旅館・ホテル営業のフロントについて

旅館・ホテル営業の施設については、フロント(玄関帳場)に関する規定があります。(簡易宿所営業や下宿営業では適用はありません)

例えば、厚生労働省令である旅館業法施行規則には、以下のいずれにも該当することとされています。

① 事故が発生した時その他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること

② 宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室のカギの適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること

また、東京都の旅館業法施行条例では、「宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場(フロント)を設ける場合は、宿泊しようとする者の利用しやすい位置とし、受付等の事務に適した広さを有するものとすること」とされています。

考え方としては、フロントを設置する場合は、施設の出入り口又は宿泊者が施設を利用するときに必ず通過する通路に面して設置して、結果、営業する者と宿泊者が必ず応接できる構造にする必要があるということです。従いまして、営業者が宿泊者と全く応接せずに、宿泊者が客室に自由に出入りできる構造では、認められないことになります。

また、フロントを設けずに、タブレット端末やテレビ電話機等のICT機器(情報通信技術)などの設備を設ける場合は、以下の点に注意する必要があります。最近のロボットを利用したホテルなどはこれに当たります。

① 宿泊者に緊急を要する事態等が発生した際に、宿泊者が施設従業員や管理会社等に緊急通報するために、客室、通路等に電話機等の通信設備を設置する。また、宿泊者からの求めに応じて、施設従業員・管理会社が徒歩・車等の手段を用いて、おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制を整えている。

② 施設従業員等が宿泊者の顔、宿泊者名簿の正確な記載を画像により鮮明に確認するため、施設等にテレビ電話やタブレット端末を備え付けている。

③ 宿泊者がスマートフォン等を使用して客室等のカギの開閉を行うシステム(スマートロック等)を設置している。

④ 宿泊者の本人確認や宿泊者以外の出入りの状況確認を、鮮明な画像により常時確認することができるビデオカメラ等を設置している。

今回は、旅館・ホテル営業の施設におけるフロントについて、ご説明いたしました。

旅館業許可 トイレの設置について

今回は、旅館業許可に関するトイレの設置についてご説明いたします。

まず、旅館業法施行令第1条には、旅館・ホテル営業と簡易宿所営業ともに、「適当な数の便所を有すること」と規定されています。

また、東京都の旅館業法施行条例では、トイレについては次の基準によることとされています。

イ 防虫及び防臭の設備並びに手洗い設備を有すること

ロ 宿泊者等の利用しやすい位置に設けること

ハ 共同便所を設ける場合は、男子用、女子用の別に分けて、適当な数を備え付けること

二 便所を付設していない客室を有する階には、共同便所を設けること ⇒「共同便所」については、その階において宿泊客専用の共同便所を男女別に分けて設置する必要があります。男子用便所に設置される便器は、大小を兼ねた便器でも構いません。

簡易宿所営業におけるトイレについては、1客室のみの営業であっても、多数人での共用という利用形態ですので、男女別の共同便所が少なくともそれぞれ1か所以上必要となります。

また、1客室のみの旅館・ホテル営業施設におけるトイレについては、客室の外にしかトイレがない場合であっても、そのトイレが客室から利用しやすい位置にあり、かつ、戸建て住宅等の居住者との移動動線等を踏まえて宿泊客専用のトイレとみなせるとき、その客室はトイレを付設している客室とみなすことができます。トイレの位置が客室の上下の階に設置されている場合も、利用しやすい位置とされます。

次に、「共同便所」に関しては、旅館・ホテル営業では、トイレを付設していない2つ以上の客室の場合、男女別に分けた共同便所が必要になります。但し、1棟貸切でトイレを付設している施設であったり、1フロア貸切でそのフロアにトイレを付設している施設であれば、共同便所が不要となります。一方、簡易宿所営業では、多数人で共用する客室の場合は、男女別に分けた共同便所が必要です。そしてトイレを付設していたり、多数人で共用しない客室であれば、共同便所が不要となります。

今回は、トイレの設置について、ご説明いたしました。

旅館業の許可 客室の面積について

今回は、旅館業の許可における、客室の面積についてご説明いたします。

まず、客室とは、睡眠、休憩等宿泊者が利用する場所をいい、壁やふすまなどによって区画されたものをいいます。例えば、浴室、トイレ、洗面所は客室ですが、床の間や押し入れ、共通の廊下、共有の設備などは客室とは言いません。

次に、旅館業法施行細則の第9条第1項と第2項には、客室の構造部分の合計床面積の基準が示されています。それによると、旅館・ホテル営業では、7㎡以上(ベッドを置く場合は9㎡以上)簡易宿所営業では、33㎡以上(宿泊者の数(2人以上)を10人未満とする場合は、3.3㎡にその宿泊者の数をかけた面積以上)とされています。

構造部分の合計床面積は、寝室、浴室、トイレ、洗面所その他宿泊者が通常立ち入る部分の床面積を合計した面積です。床の間、押し入れ、クローゼットなど、通常は立ち入らない部分については算定から除きます。

面積の算定では、建築で使用する壁芯(へきしん)のものとは違い、内法(うちのり)で算定します。壁芯とは壁や柱の中心を基準として図る方法です。それに対して内法とは、壁や柱の内側から測る方法です。従って、内法の算定結果は壁芯のものよりも少ない数値となります。つまり、構造部分の床面積、建築図面の床面積よりも少なくなります。

次回は、トイレの設置に関する注意事項についてご説明いたします。

旅館業法の許可が必要な施設について

今回は、旅館業法の許可が必要な施設とはどういうものかについて、ご説明いたします。

旅館業法の許可が必要な施設は、下の4つの項目のすべてに当てはまる場合です。

① 宿泊料を受けていること = 「宿泊料」として受けていなくても、「電気・水道等」の維持費としての名目でも、事実上の宿泊料として考えられるため、該当します。

② 寝具と使用して施設を利用すること = 宿泊施設が用意した布団はもちろん、宿泊者が持ち込んだ寝具でも該当します。

③ 施設の管理・経営形態が総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含めて、施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあるものと認められること = 宿泊者が簡易な清掃を行っていても、施設の維持管理において、営業者が行う清掃が不可欠となっている場合も、維持管理責任が営業者にあると考えられます。

④ 宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として、営業していること = その施設で生活をしているか否かによって判断されます。ウイークリーマンションも旅館業の許可が必要になります。

会員制の宿泊施設や企業の研修所であっても、上記の4つの項目に全て該当する場合は、旅館業法に基づく許可が必要になることがあります。あらかじめ保健所に相談すると良いでしょう。

旅館業の許可申請について

今回は、旅館業の許可申請についてご説明いたします。尚、都道府県、市町村ごとの条例により条件が変わってきますが、ここでは東京都多摩地域の場合を前提にご説明いたします。

旅館業の営業許可については、申請場所・構造設備について、図面等の資料を持参して、事前に保健所に相談することから始まります。

また、旅館業の施設は、新設・既存にかかわらず、消防法、建築基準法、都市計画法といった旅館業法以外の法令にも関係している場合がほとんどです。関係法令を所管している部署にも事前に相談にいきましょう。東京多摩地域の場合、下記の通り、多くの関係機関に相談することになります。

出所:東京都西多摩保健所 旅館業のてびき
出所:同上

事前相談の次は申請手続きですが、許可申請時に必要な書類は下記のとおりです。

① 旅館業営業許可申請書  

② 申告書 人的要件に関して欠格事由に該当しないことを申告するものです。

③ 見取図(半径300メートル以内の住宅、道路、学校等が記載されたもの)

④ 配置図、各階平面図、正面図、側面図

⑤ 配管図(客室等にガス設備を設ける場合)

⑥ 定款又は寄附行為の写し(法人の場合)

⑦ 申請手数料  旅館・ホテル業 30,600円  簡易宿所営業・下宿営業 16,500円

⑧ 登記事項証明書(法人の場合、6か月以内に発行されたもの、原本)

⑨ 旅館業を営もうとする施設について土地及び建物に係る登記事項証明書、賃貸借契約書の写しその他の旅館業を営むために必要な権原を有することを示す書類

 次回は、旅館業の申請時における主な注意点についてご説明いたします。       

旅館業について

今回から、旅館業とその許可申請についてご説明して参ります。

旅館業については、旅館業法というものがあります。これによると、旅館業とは、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業と定義されています。従って、宿泊料を徴収しない場合は旅館業法の適用を受けません。

そして、旅館業には以下の3つの種類があります。

旅館・ホテル営業 --宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、②③以外の施設です。

簡易宿所営業 --客室を多人数で共用する宿泊施設です。カプセルホテルや山小屋などが当てはまります。当然宿泊料を受けます。

下宿営業 --1か月以上の期間を単位とする宿泊施設のことです。こちらも宿泊料を受けます。但し、宿泊者が生活の本拠を置くような場合、例えばアパートとか間借り部屋などは、貸室業・貸家業でありますので、旅館業とはなりません。

上記3つ全てが旅館業です。旅館業の営業の許可は、各都道府県知事の許可を受ける必要があります。(保健所設置し又は特別区にあっては市長又は区長です)

ここで少し「民泊」について述べておきますと、民泊という言葉は法令上の明確な定義はありませんが、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業・事業のことです。これらの営業を行うためには、「旅館業」の許可を取得するか、施行後1年が経った「住宅宿泊事業法」に基づく住宅宿泊事業の届出をする必要があります。

「住宅宿泊事業」とは、旅館業者以外の方が、宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業のことで、人を宿泊させる日数が1年で180日を超えないものとされています。つまり、それを超えてしまう場合は旅館業の許可を取得する必要があるということです。

日本への外国人旅行者数が年間3,000万人を超え、来年2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。全国的にホテルをはじめとした宿泊施設の開設が盛んですし民泊も増えている状況です。これから新しくゲストハウスや民泊を始めようとされる方も多いと思いますが、そのために必要な許可や届出があることは心得ておきましょう。

次回は旅館業の許可申請についてご説明いたします。