法定後見制度と任意後見制度について

今回は、成年後見制度における法定後見と任意後見について、簡単にご説明いたします。

まず、成年後見制度とは何かについてですが、認知症のお年寄りや知的障害・精神障害のある方が、現在の能力や財産を活かしながら、終生その方らしい生活を送ることができるように、法律面や生活面から保護し支援する制度のことです。

そしてこの成年後見制度は、法定後見制度任意後見制度の2つに分けられます。

例えば認知症のお年寄りについていえば、既に判断能力が低下してしまっており今すぐ支援を受けたい場合は法定後見制度を利用することになります。一方現在は認知症ではないが将来の判断能力の低下に備えたいという場合は任意後見制度を利用することができます。このタイミングが法定後見制度と任意後見制度の決定的な違いです。

法定後見制度は、その名のとおり法律に定められた後見制度ということですが、この法律は「民法」のことです。判断能力が低下した時に、家庭裁判所に後見人等を選任してもらい、その人に支援してもらいます。申立時(家庭裁判所に相談に行ったとき)の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3つの類型があり、支援する人をそれぞれ後見人・保佐人・補助人と呼びます。

一方任意後見制度は、「任意(契約)」といっても根拠となる法律があり、それは「任意後見契約に関する法律」です。判断能力があるうちに、将来支援してもらう人との間で支援の内容を公正証書で契約しておき、判断能力が衰えた時に任意後見監督人という人の選任申立を行うことによって、速やかに支援してもらうことができます。

成年後見制度の利用の促進について

今回は、成年後見制度の利用促進についてご説明いたします。

今まで成年後見制度が十分に利用されてこなかったということを鑑みて、成年後見制度の利用の促進に関する法律が平成28年5月13日に施行されました。

その背景としましては、日本の高齢化率(65歳以上の人口の比率)が2017年には27.05%に達して、世界の中でもダントツで高齢化率が高い状況ですが、その中でも75歳以上の高齢者の増加が顕著であります。そして、認知症高齢者数が急増しており(75歳以上では27.5%)、2025年には1,000万人になるということです。

このようなことから、もっと成年後見制度を利用してもらおうということで、成年後見制度の利用の促進に関する法律が成立したわけです。ちなみに、平成30年度の制度利用者数は約22万人です。これはこの制度の利用を必要とする人の6分の1とのことです。

この法律の基本理念は3つあります。第3条に書かれていることですが、①ノーマライゼーション、②自己決定権の尊重、③身上保護の重視です。ノーマライゼーションとは、成年被後見人等の方が成年被後見人等でない方と同様に基本的人権が尊重されて共生社会を実現するということです。この基本理念を明文化したものが民法858条の「成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮」となります。以下がその条文です。

「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」

ここで、成年後見制度とは、認知症高齢者や障がい者が、自由で平等な契約社会において、十分な判断能力がなく、適切な意思決定が困難である場合に、法的に支援するというものです。つまり、公的な監督のもとに財産を安全に管理し、生活・医療・介護・福祉の充実を図る制度ともいえます。

次に、成年後見制度の種類については、①ご本人が元気なうちに将来に備えて自ら支援者を選定しておく「任意後見」と、②判断能力が不十分になってしまったご本人に、国が支援者を選定する「法定後見」の2種類があります。

任意後見と法定後見の関係については、ご本人に判断能力が十分あるうちに任意後見を準備するという任意後見が優先します。これに対して法定後見は、任意後見の準備なしにご本人の判断能力が低下してしまった時に、国が後見人等支援者を選定するというわけです。

任意後見の仕組みは安心です。まず、ご本人は判断能力が十分な時に、行政書士等の任意後見受任者と契約を結びますが、その契約は公証役場の公証人が公正証書として残します。更に後見の登記もされます。契約後でも、ご本人が判断能力が低下するまでは当然何でもできます。自己決定権が尊重されます。この時期は任意後見受任者は何もすることはありません。

そして、ご本人の判断能力が十分でなくなったときに、任意後見受任者は家庭裁判所に対して、任意後見監督人の選任を申し立てます。家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて任意後見受任者は任意後見人として保護がスタートするわけです。つまり、ご本人の判断能力低下後は、公的監督による保護が行われるということです。 

最後に、こちらが成年後見制度の利用の促進に関する法律イメージ図です。

このように、事前準備をせずに法定後見という公的保護を受ける前にも、任意後見という安心できる仕組みがありますので、多くの方々に前向きに検討してもらいたいですね。

遺産分割協議書について

今回は、遺産分割協議書についてご説明いたします。

親族・身寄りのいないAさんは、そもそも遺産を相続してくれる相続人がいないので、遺産分割協議書を作成する人も、作成する必要もありません。

一方、ご本人が遺言書を残さずに突然亡くなってしまった場合や、遺言書はあるけれどもその内容とは異なる遺産分割を行いたい場合などに、遺産分割協議書は作成されます。

遺産分割協議書は、ご本人が亡くなったことにより、その遺産(財産)を承継する相続人である家族・親族など、全員で協議された結果を書き残す文書です。全員でなされなければ無効となります。

遺言書の内容と違った遺産分割を行う協議も可能ですが、相続人全員が同意することが必要です。

遺産分割の対象となるものは、ご本人の現金預貯金・不動産・有価証券などの「積極財産」のみとなり、借金などの「消極財産」は遺産分割の対象となりません。消極財産は、ご本人が亡くなったと同時に法定相続分に応じて当然に承継されるものだからです。

遺産分割協議書には、相続する財産をすべて記載して、誰が取得するのかを明記しておくことが原則です。しかし、分割協議書作成後に財産が見つかることもありえます。そのような場合に備えて、あらかじめ遺産分割協議書に、どのようにするのかを記載しておくと良いでしょう。例えば、改めて分割協議を行うことにするとか、特定の相続人が取得することにしておくとかです。

遺産分割協議書は、不動産の相続登記時や金融機関での相続財産の引き出し時に必要なため、行政機関や金融機関等が認める形式・正確な内容である必要があるため、行政書士に作成を依頼するのが無難です。或いは、不動産を相続する場合は、登記の専門家である司法書士に依頼することになります。

次回からは、会社の設立についてご案内いたします。

遺言書作成について

今回は遺言書作成について、ご説明いたします。

前回までのおさらいとなりますが、親族・身寄りのいないAさんは、行政書士等との間で生前に、財産管理等委任契約・任意後見契約、そして死後事務委任契約を結んでいました。そして、ご自身が亡くなった後の残余財産について、お世話になった方々にあげたり、地元に寄付したりしたいと考えています。この場合、遺言を作成しておくというお話でした。

まず、遺言とは遺言者がする相手方のない単独の意思表示ですので、誰かの了解を得たり内容を知らせる必要はありません。そして、Aさんが15歳に達していればすることができます。受け取る側(受遺者)になれるのは、自然人と法人です。従って、お世話になったご近所の方など、法定相続人以外や外国人でも構いません。遺言によって法的効力を得るのは、財産の処分や身分に関する事項などですので、「葬式は質素に行って欲しい」などの感情は、遺言書に書いたとしても、法的な効果は発生しません。また、遺言は法律の定める方式に従わなければ、法的な効力が生じません。

そして遺言の方式の種類ですが、普通方式と特別方式があります。通常は普通方式により遺言を作成します。その中でも多く利用されているのが、自筆証書遺言と公正証書遺言です。自筆証書遺言にも公正証書遺言にも、メリットとデメリットがあります。

自筆証書遺言のポイントとしては、次のようなものです。

①費用が掛からない。

②全文を自署します。パソコン等での作成は不可となります。

③日付や氏名を自筆で書きます。日付が不明確だと無効となります。

④押印します。認印でも構いません。

⑤封印は任意となります。封印されている場合は、家庭裁判所で開封しますので、その前に勝手に開封はできません。

⑥家庭裁判所での「検認手続き」が必要です。この時、法定相続人全員が家庭裁判所に呼ばれます。検認手続きが完了するまで、通常1か月以上かかります。

一方、公正証書遺言のポイントは下記のようなものです。

①費用が掛かる。

②公証役場で作成します。

③証人が2人必要です。

④「検認手続き」は不要となります。従って、すぐに相続手続きに移ることができます。

尚、どのような場合に遺言書を作成しておいたほうが良いのでしょうか。

まずはAさんのように親族・身内がいないケースです。残った財産を誰にどのような財産をあげるかを書き残すことができます。次に、親族・身内はいるが法定相続人以外の人にあげたいケースです。例えば、息子の奥さんが良く面倒を見てくれたから財産を渡したいなどです。逆に親不孝な息子には法定相続分通りにあげたくないと思うケースもあります。或いは、前妻との間に子がいたり、外に認知した子がいて、それを家族が知らないケースなどもあります。

次回は、遺産分割協議書についてご案内いたします。

死後事務委任契約について

今回は第三ステージ、つまりAさんが亡くなった時のための死後事務委任契約についてご説明いたします。

まず、死後事務委任契約とは何かというと、身寄りのいないAさん(委任者)が行政書士等の受任者に対して、Aさんが亡くなった後の葬儀や埋葬等に関する仕事を委託するものです。

普通、委任契約というものは、原則として、委任者又は受任者の死亡によって終了してしまいます。また、双方とも、いつでも委任契約を解除(キャンセル)することができます。

しかしこの死後事務委任契約は、Aさんの死亡によっても、委任契約を終了させない旨の合意をした契約となります。つまり、死亡によっても契約は終了しないという意味です。

そして、死後事務委任契約の内容には、短期の死後事務と、3回忌や7回忌法要などを委託する長期の死後事務がありますが、一般的には短期の死後事務を委任することとなります。

短期の死後事務の例としては、次のようなものがあります。

・水道光熱費の支払いや役所への諸届出

・葬儀や埋葬などに係った費用の支払い(通夜・告別式の場所やお寺の指定、埋葬・納骨場所の指定もできます)

・家賃・治療費・入院費などの支払い

・家財道具や生活用品の処分

この死後事務委任契約は、法律上は必ずしも公正証書によって契約書を作成する必要はないのですが、Aさんが亡くなった後に、行政書士等に確実に委任された業務を行わせるためにも、行政書士等と共に公証役場に行き、公正証書の形で作成することが望ましいです。

ところで、死後事務を終了させた後に残った財産(残余財産)をどうするのかについて、死後事務委任契約書に書いておくことになります。

身寄りのないAさんは、お世話になったご近所の方々へ残余財産をあげたいと考えていたとしますと、あらかじめ遺言書を書いて残しておくことになります。

次回は、この遺言書作成についてご案内いたします。

任意後見契約について

今回は、前回の「財産管理等委任契約」に続きまして、「任意後見契約」についてご説明いたします。3つのステージのうち、第二ステージについてです。つまり、認知症発症からお亡くなりになるまでの間です。

まず、成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度に分けられます。

法定後見制度は、Aさんが実際に判断能力が低下してから、Aさん本人や家族等の申し立てによって、家庭裁判所がAさんの保護者を選定する制度です。法律の規定による後見制度です。手続きは、弁護士や司法書士が行います。

一方、任意後見制度は契約による後見制度です。つまり、Aさん本人がまだ元気で判断能力がある間に、将来Aさんの判断能力が低下した場合に備えて、Aさんの代理人(任意後見人)となる人を選び、その代理人にどのような権限を与えるかを契約によってあらかじめ決めておき、実際にAさんが判断能力が不十分になったときに、代理人に後見事務を行ってもらうものです。このことを任意後見契約と呼びます。

そして任意後見契約は、Aさんが受任者である行政書士等に対して、認知症が発症した場合、Aさんの生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託して、その委託に関する事務について代理権を付与するものです。この契約は、契約を締結したらすぐに効力が発生するものではなく、家庭裁判所により任意後見監督人が選定された時から効力が発生します。

また、任意後見契約書は、公正証書によって作成しなければいけませんので、Aさんのご自宅の周辺にある公証役場に、受任者である行政書士と共に出向く必要があります。

この任意後見契約書があれば、Aさんが認知症を発症してしまっても、契約に従い行政書士等の受任者が、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらい、代理業務の報告もこの任意後見監督人にすることになり安心です。大抵の場合、任意後見監督人は弁護士や司法書士が選任されます。

前回から今回までの流れをもう一度おさらいしますと、Aさんが元気で認知症でもない時に、将来認知症になってしまう時までを網羅する「財産管理等委任契約」を結んでおき、認知症が発症した時のために「任意後見契約」を締結しておくことで、安心して将来に備えることができます。

次回は、第三ステージである死後事務委任契約についてご案内いたします。

財産管理等委任契約書について

今回からしばらくは、成年後見・相続についてご説明いたします。

お話の前提として、現在一人暮らしで家族も身寄りも身近におらず、健康状態は今は元気だが、将来が心配である、という方々といたします。或いは、子供はいるが、転勤のため遠くにいるので、現在は一人暮らしの状況を前提といたします。この方を仮にAさんと呼ぶことにします。

そして、将来ご自身が認知症を発症した時や亡くなった時のことが不安なため、身近な街の法律家である行政書士に相談に行き、必要な業務を行政書士に依頼するという設定で話を進めてまいります。

現在からお亡くなりになるまでの間を3つのステージに分けます。第一に、健康で認知症でもない現在から認知症が発症してしまうまでの間、第二に、認知症発症からお亡くなりになるまでの間、第三に、お亡くなりになった時、の3つのステージに分けてご説明していきます。

まずは第一ステージについてです。Aさんは現在元気で判断能力もある(認知症ではない)状態です。Aさんは行政書士に電話をし、相談しに行きます。そこで、ご自身の生活環境、家族関係、健康状態等を説明し、将来認知症になった場合、亡くなった場合に備えてどのような準備をしていけばよいか、行政書士に聞きます。

行政書士はまず相談料を伝えますが、相談については無料で行っている行政書士が多いです。その他、今後業務が発生した場合の行政書士の報酬額や、公正証書を作成する場合の法定費用などの概算を見積書にして伝えます。着手金についてもここで提示します。

Aさんが納得したら、行政書士との間で契約書を締結します。内容は、「財産管理等委任契約」と「任意後見契約」です。

財産管理等委任契約は、Aさんが行政書士に対して、Aさんの財産に関する事務の全部又は一部について、代理権を与えるというものです。代理権を与えるといっても、Aさんの行為が制限されることはありません。この契約があれば、もしAさんが身体上の障害がある場合(例えば事故で入院したとき)に、行政書士に契約等の法律行為を行ってもらうこともできます。そして、行政書士の義務の履行を監督する監督人を選任することが可能です。ただし、この時期はAさんはまだ元気でご自分で監督できますし、別途監督人への報酬も発生してしまいますから、必ずしもおく必要はありません。

そして、この財産管理等委任契約は、公証人役場に行って公正証書の形で作成するのが望ましいです。公証役場には元検察官や裁判官の方々がいて、こちらが用意した文書や話した内容について、それを文書化してくれる場所で、その文書を公正証書と呼びます。公正証書の信頼性は圧倒的に高いです。ご自宅の周辺にも公証役場があるはずですので、ホームページなどで調べてみてください。公正証書にした場合、当然費用(公証役場への手数料+行政書士への報酬)が掛かりますが、文書の信頼性を考えると強くお勧めできます。

次回は、任意後見契約書についてご案内いたします。